日本はWeb 3.0 においてクリプトスプリング(春)を迎えることはできるのだろうか?国内の規制環境と暗号資産市場の考察・分析

ブロックメゾンリー・ブロックチェーンアカデミー

著者:中村秀大・藤木天人

記事の要約

  1. ブロックチェーンゲームやNFTの分野で急成長が予測される日本のWeb3.0市場に着目する。ゲーム産業の主要なプレイヤーや金融機関はブロックチェーン技術に積極的に投資しており、現在の日本のWeb3.0市場には海外からも注目が寄せられている。
  2. ブロックチェーン事業では、日本における厳しい規制が参入障壁となっており、スタートアップはより柔軟で自由な規制環境を求め、国外へ移転していく傾向がある。次世代インターネットの導入を奨励するために、市場とのバランスの取れた政策アプローチを採用し、イノベーションを促進していくことが日本にとっては急務である。
  3. 日本には強力な技術基盤があるにもかかわらず、新技術の振興と実用化、特に暗号資産の普及には課題がある。慎重かつ保守的でリスク回避の文化、高齢化社会、そして破壊的イノベーションよりも安定を好む傾向が、技術振興を妨げている。心理的な障壁を乗り越えて、いかに次世代の金融の勢いを取り込めるかが今後の日本のWeb3.0市場の命運を分けることになる。

1.0 はじめに

米国ではゲーリー・ゲンスラー議長率いるSECが業界リーダーや規制当局、議員からの批判に直面している。特にデジタル資産に対する「執行による規制(Regulation by enforcement)」が注目を集めている。最近では、SECはCoinbase、Kraken、Rippleなどの仮想通貨取引所に対して訴訟を起こし、現物型ビットコイン上場投資信託(ETF)の承認も保留している。オーストラリア、イギリス、シンガポール等の国々と比較して、暗号資産の規制で遅れを取っており、暗号資産業界が国外への移動を余儀なくされている。一部の業界関係者は、一時的に米国外の市場でブラットフォームの成長とユーザーの確保を行い、適切なタイミングで米国市場に回帰するという戦略を示唆している。

このため、業界全体が米国外の市場に注目している。そうした中、Web3.0の推進に積極的な政府と1億2千万人の人口を有する日本は、Web3.0事業にとって魅力的な市場である。ゲームの歴史と技術力に富んだユニークな特性を持つ日本市場は、成長するブロックチェーンゲーム市場で事業を拡大したい企業にとって興味深い市場を形成している。自由民主党のWeb3.0プロジェクトチームが公表した「Web3ホワイトペーパー」によれば、日本は暗号資産の苦難を幾度と乗り越えてきた国であり、初めて「クリプト・ウィンター」の先にある春を迎える可能性があると述べられている。Web2.0技術の普及で取り返しのつかない遅れをとった日本は、今度こそ産業構造を改革し、暗号資産及びWeb3.0のグローバルリーダーとして台頭できるのであろうか?この記事では、日本の暗号資産に関する歴史、規制環境、及び市場に触れ、この問いについて検討をしたい。

2.0 日本の暗号資産と「クリプトウィンター」(冬)

日本はもともと、暗号資産の普及がいち早く進んでいた国の一つであり、2010年代初頭から急速に暗号資産業界の中では注目を集めてきた。2017年には、米国や中国を抑え、世界のビットコイン取引量の約43.6%をも占め、国際的に大きな存在感を放ってきた。ところが、2010年代後半にかけて、大規模な取引所でのハッキング事件への対応が起因となり規制が強化されていくと、税制やルールの不確実性が原因で日本の暗号資産市場は従来の輝きを失い、国内外の起業家や投資家にとってその魅力が薄れていった。その結果、多くの起業家や投資家は、より好条件のビジネス環境を求めて日本を去ることを余儀なくされた。

この逆境に拍車をかけるかのように、「クリプト・ウィンター」が訪れた。米国での利上げが契機となり、暗号資産の価格やNFTの取引量が急速に減少していった。アルゴリズム型ステーブルコインや主要な暗号資産取引所の崩壊も相まって、世界のビジネス環境が急速に悪化した。Web3.0熱に冷や水を浴びせるように、各国で規制が一段と強化される中、日本の暗号資産産業も強い危機感に包まれた。

幸いにして、この逆境が日本のWeb3環境の強さを世界に再認識させる契機となった。昨年11月に仮想通貨取引所FTXが崩壊した後、世界中の100万人以上の投資家が資金を引き出しできなくなった。この問題解決のため、FTXの日本法人は2月に全ての検証済みアカウントに対して引き出しを許可し、4月25日時点で約1万人の顧客が約234億円相当の暗号資産と現金を引き出している。

3.0. 成熟した規制環境

日本の暗号資産規制は世界的に見ても、最も「成熟」していると言って過言ではない。その基本的な姿勢は「暗号資産は有価証券とは見なされない」というものだ。2017年施工の改正資金決済法は日本が国として「暗号資産とは何か」という定義を初めて明確にした画期的な法律であり、暗号資産に対してここまで踏み込んだ法律をつくったのは世界で初めての試みであった。

過去に暗号資産業界の困難に何度も立ち向かい、その打たれ強さを示してきた現在の日本のポテンシャルについて、岸田政権は「Web3の計り知れない将来性を、説得力を持って世界に説くことができる位置にいる」と日本がWeb3の未来を切り拓く可能性を示した。日本政府はデジタル社会推進本部の設立を通じて、2022年1月に国家戦略を発足させた。Web3プロジェクトチームは党に対して、規制改革の提案を継続的に行っており、一部は既に実施され、他の提案も進行中である。日本政府はこの機会に乗じて、国際的に競争力のあるWeb 3.0事業環境を整備し、業界のスタンダードとなる規制環境を構築して、世界をリードしていくことを目指している。

日本の強みの一つは、米国とは対照的に、「規制の明確さ」にある。米国では、証券取引委員会(SEC)や商品先物取引委員会(CFTC)、また州ごとの規制機関が複雑に絡み合い、様々な規制機関が乱立している。一方、日本では金融庁が唯一の規制機関であるため、明確なルールのもと事業者が自信を持ってWeb3.0ビジネスに進出できる規制環境に期待が寄せられる。

暗号資産に関する法律に関しては以下のWeb3.0ホワイトペーパーを参照されたい:

https://www.taira-m.jp/web3%E3%83%9B%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%EF%BC%88%E6%A1%88%EF%BC%89_230406.pdf

4.0 国際舞台でのリーダーシップ

国家戦略は主に国内の規制環境の発展に焦点を当てているが、同時に新たな分野において世界をリードする狙いもあるのではないだろうか。過去2年間、日本は地域のリーダーとしてだけではなく、G7の議長国としても役割を果たしてきた。また、2023年5月には岸田首相が東アジア・ASEAN経済研究センターエリアに、デジタルイノベーションセンターを立ち上げ、「アジア域内の信頼性のあるデータ連携、サプライチェーンの高度化に取り組む」ことを表明した。

日本のスタートアップとカンボジア国立銀行との協力で開発された「Bakongシステム」は、既にカンボジアのCBDC(中央銀行デジタル通貨)とステーブルコインを活用して地域間のクロスボーダー決済を可能にしている。2022年の時点では850万人以上のユーザーを有し、150億ドルを超える支払いを処理しており、今後も拡大が期待されている。

日本が2023年のG7議長国としての役割を果たすことは、Web3.0の文脈において中立的かつ責任あるイノベーションを推進する主要国としての地位を確立する上で重要な意味を持っている。議長国として日本が取り上げたのは、消費者と投資家の保護の強化、国を跨ぐデータとデジタル資産の移動に関する統一された法律の策定、そしてマネーロンダリングとテロ資金供与に対抗するための「トラベルルール」の提案である。これらの提案は、「国家戦略」と同様に、暗号資産活動に関するリスク管理をするための規制と監督の重要性を強調している。

これに対して、G7デジタル・技術大臣達は日本のSociety 5.0 ビジョンや革新的なデジタルエコシステムの構築を支持した。その結果、G7の 「Inventory of rules for Digital Markets(デジタル市場の規則に関する目録)」の更新、2023年秋にデジタル資産とセキュリティに関する会談の開催、「トラベルルール」の採用など、様々な合意が生まれ、安全なデジタルインフラへの移行を促進するために日本と世界銀行で共同イベントを開催することまで決定させた。

5.0 日本経済とWeb3.0市場

暗号資産業界の健全な発展には、政府の取り組みや政策が重要な役割を果たす一方で、同様にWeb3.0を実際に推進する企業や利用者などの参加者による努力が不可欠である。かつて、その技術力とコンテンツの豊さで知られた日本は、世界のテクノロジーの舞台で無類のリーダーであった。しかし、シリコンバレーや中国の台頭や1990年代初頭の経済バブル崩壊に直面し、日本経済は「失われた30年間」と呼ばれる停滞期に入った。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(世界一としての日本)と賞賛された1980年代の功績に囚われ、製造業への過度な依存は相変わらず、経済の多様化に失敗したのである。日本の産業・企業にとって、激化する世界的なデジタル競争の中で、抜本的なデジタル改革はもはや必須である。

このような状況の中で、急成長するWeb3.0市場は日本にとって「一筋の希望」である。A.T.カーニーの2023年の報告によれば、「コンテンツ・IPがアプリケーションレイヤーの成長を押し上げやすい」ため、「グローバル市場規模に比べて、日本は早いペースでの成長」が見込まれている。また日本は、NFTを「Web 3.0時代のデジタル経済の起爆剤」と考えている。日本のWeb3.0市場は、2021年の約0.1兆円から2027年には約2.4兆円に成長すると予測されており、20倍以上の増加が見込まれている。日本のたまごっちやポケモンなどのキャラクター育成系ゲームの浸透や文化的な背景は、コミュニティのロイヤリティー(帰属意識)が重要なブロックチェーンゲームと相性が良い。それゆえに、コンテンツ大国の日本はブロックチェーンゲームや非代替性トークン(NFT)との親和性が高いと言われている。

世界的な逆風の中、Web3.0産業の新たなプレイヤーが日本で存在感を示し始めている。スクウェア・エニックス、セガ、ソニーなどの大手ゲーム会社はノードバリデーターとしてインフラの側面からブロックチェーンに参加するなどして、会計、法律、税務等のブロックチェーン技術に関する知見を得ようとしている。2023年6月に改正資金決済法が施行されてからは主要な金融機関がステーブルコインの発行と普及に向けて動き出している(サークル社、SBI、三菱UFJ銀行、みずほ銀行など)。また、仮想通貨への関わりが限定的であったNTTドコモなどの通信会社や伝統的な大企業もWeb3.0セクターへの大規模投資を始めている。既存の主要企業が合併事業や子会社を通じて産業に参入するだけでなく、Web3.0投資に特化した国内初のベンチャーキャピタルも登場している(Skyland Ventures、Emote、MZ Web3 Fund)。さらには地方自治体が独自のNFTを発行するなど、地域活性化の手段としてもWeb3.0プロジェクトに強い関心を示している。コンテンツクリエイターは引き続きブロックチェーン技術を新たな表現の手法として可能性を模索しており、市民は社会問題に対処するための手段として期待を寄せている。

ブロックチェーンゲームなどの新しい分野を民間セクターが推進していくことで、日本はWeb3.0の領域で重要なプレイヤーとしての地位を確立することができる。その上でも、前向きで適切な規制環境が積極的なイノベーションと成長を促すためには不可欠である。

6.0 課題

ブロックチェーンへの熱意や新たな取り組みとは別に、日本政府と民間企業の双方にとって、その実際の導入と普及には困難な課題が依然として残っている。2023年のChanalysisの報告によれば、世界の暗号資産の普及は、インド、ナイジェリア、ベトナムが先導し、日本は18位に順位付けされている。日本は強力な技術基盤を有しているにも関わらず、リスク回避の文化、高齢化社会、そして破壊的イノベーションよりも長期的な安定を好む傾向がブロックチェーン普及に対する懸念を引き起こしている。

振興技術の活用がもはや周回遅れともなっている現状の日本にとって、Web3.0を経済成長の原動力にするという目標は、一体どれほどハードルが高いのであろうか。経済産業省の報告書によれば、起業家の不足、限られた出口戦略、革新的な製品とサービスに対する国内市場の反応の弱さが、Web3.0領域に進出するスタートアップや個人に取って参入障壁となっている。また、デジタル庁が2021年末に設立されてから2年が経過しているにも関わらず、主だった進展はまだ見られない。現時点において、国家政府レベルの手続きのうちわずか7.5%しかオンラインで遂行できないとされ、これが日本のWeb3.0エコシステムへの野心的な進出を一層困難にしている。

さらに、キャッシュレス化の移行も現金主義の文化が根強い中で課題に直面している。キャッシュレス決済は新型コロナウィルスの影響を受けてもなお、個人消費支出全体の30%にも及ばない。日本国内でキャッシュレス決済を行うためには日本の電話番号または銀行口座が必要であり、特定の国に属さないWeb3.0企業や個人が日本市場に参入する上で新たな課題として積み上がっている。

また、一般市民の暗号資産に対する関心は極めて限定的である。暗号資産に対する十分な理解を得る前にハッキング事件が重なり、怪しくて胡散臭いものという認識が広がってしまった。SBIファイナンシャルと経済研究所が2022年8月に行った調査では、日本人の暗号資産の投資や利用に対する慎重な姿勢が窺える。5つの主要国(米国、イギリス、ドイツ、韓国、中国)との比較においては、暗号資産への認識と関心が最も低い国となっている。アンケートの回答者の中には、NFT、ステーブルコイン、セキュリティトークンといった概念に馴染みがないと回答する者が多数派を占めた。金融に関する豊富な知識を持つ人たちの中でさえも、暗号資産に対する抵抗感があり、事業者が国内サービスを拡大する上での解決すべき最重要課題が浮き彫りとなった。

7.0 次なるステップ

現行の規制環境は、日本のブロックチェーン事業にとって最適とは言えない。厳格な規制と友好的ではない税制度により、仮想通貨のスタートアップはシンガポールのようなキャピタルゲインが課税対象外となる国に逃れている現状がある。厳格な規制は投資家の資産保護に寄与している一方、同時に革新を妨げており、民泊施設やライドシェアのような産業に対する過剰な規制ともしばしば比較される。

これとは対照的に、米国はより寛容なイノベーションへのアプローチを取っているが、統一された規制が存在しないことが業界の混乱を引き起こし、国家戦略の策定を妨げている。言い換えれば、米国は「マーケット主導」のアプローチであり、民間セクター内での競争を許容し、問題が発生した際に対処に応じている。一方、日本は「レギュレーション主導」のアプローチを取り、あらかじめ定められた規則に基づいて産業が形成されていく。これらの異なる規制アプローチの利点と欠点を踏まえると、日本政府は調和のとれた、より双方のバランスを重視したアプローチを通じてイノベーションを育むのが最善ではなかろうか。新しいベンチャーを創出するための規制の柔軟性と、Web3.0エコシステムを拡大するためのセキュリティを担保した明確な規制、その両様が肝要である。

政府がアプローチすると同時に、健全な暗号資産市場を形成するための最初のステップとして、潜在的なユーザーの参加を妨げている心理的な障壁をまず取り除くことである。文化的な背景もあり容易ならざる作業ではあるが、次世代の金融の発展、日本の経済活性化のために、官民両方が一体となり、変革の時代に向き合う覚悟を持ってして取り組まねばならない。

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Hidehiro Nakamura

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